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大阪地方裁判所 昭和34年(ワ)5248号 判決 1960年1月22日

原告 東亜高級継手バルブ製造株式会社

被告 中沢治三郎

主文

被告は原告に対し金二四三、二〇〇円及びこれに対する昭和三四年一一月六日から右支払ずみに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は金五〇、〇〇〇円の担保を供するときは仮に執行できる。

事実

原告訴訟代理人は主文第一、二項同旨の判決並に仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

「(一) 被告は、昭和三四年七月二五日訴外大野バルブ製造株式会社あてに、金額二四三、二〇〇円、満期昭和三四年一一月六日支払地、振出地大阪市、支払場所株式会社三井銀行阿倍野支店と定めた約束手形一通を振出し、右訴外会社は、同日原告に対し右手形を裏書譲渡し、原告は、同月三一日訴外株式会社三菱銀行に対しこれを裏書譲渡した。

(二) 右三菱銀行は、満期に右手形を支払場所に呈示して支払を求めたが、その支払を拒絶せられたので、直ちに原告に対し請求し、原告は、同銀行に対しその手形の償還をなし、これを受戻し、現にその所持人である。

(三) よつて、原告は、被告に対し、右手形金額及びこれに対する満期である昭和三四年一一月六日から右支払ずみに至るまで手形法所定の年六分の割合による利息の支払を求めるため本訴請求に及んだ次第である。」

と述べ、

被告の(二)の抗弁に対し

「右抗弁事実はこれを否認する。」

と述べ、

甲第一号証を提出した。

被告は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、

答弁及び抗弁として、

「(一) 原告主張の(一)の事実中、被告が訴外大野バルブ製造株式会社に対し振出日及び受取人の記載を除くその余の記載は原告主張のような本件約束手形を交付したことは認めるが、右交付の日は昭和三四年七月二九日頃であり、当時右手形の受取人らんは白地であつた、被告が、右訴外会社に対し本件手形を振出したことは争う、原告主張の各裏書譲渡の事実は知らない。

同(二)の事実中、支払拒絶の事実及び原告が現に本件手形の所持人であることは認めるが、その余の事実は知らない。

(二) (イ)訴外大野バルブ製造株式会社の代表取締役大野為一は、昭和三四年七月二九日頃被告に対し、本件手形の貸与方を懇請したので、被告は受取人らんを白地としたままこれを同人に対し交付貸与した。その際同人は被告に対し満期までに必ず本件手形を返還し、又は手形資金を持参すべく、絶対に迷惑をかけないと嘘をいつて、被告をしてその旨誤信させ、右のように借受名義で本件手形を騙取した。同人は、その後右訴外会社の代表取締役名義をもつて、本件手形を前示約定に反して流通においたのである。

(ロ)ところで、本件手形の記載によると原告会社は昭和三四年七月二五日本件手形を右訴外会社から裏書により譲渡を受けたことになつており、その取得当時原告会社は右(イ)の事情を知らなかつたが、同年一一月三日被告において原告会社代表取締役福原耕一に対し右(イ)の事情を告知したので、原告会社が本件手形を三菱銀行から受戻した際は同人は右事情を知つていたものである。従つて、原告会社は本件手形の悪意の取得者であるというべきであるから、原告は、被告に対し本件手形につき、手形上の権利を行使し得ない筋合である。

(三) 以上の次第であるから、原告の被告に対する本訴請求は失当である。」

と述べ、

甲第一号証の表面及び符箋の部分の成立は認めるが、裏面の部分の成立は不知と答えた。

理由

被告が訴外大野バルブ製造株式会社に対し振出日及び受取人の記載を除くその余の記載は原告主張のような本件約束手形を交付したことは当事者間に争がなく、表面の部分の成立に争のない甲第一号証の表面の記載によると、被告は、昭和三四年七月二五日右訴外会社を受取人として本件手形を振出したことが、認められ同証の裏面の記載及び当事者間に争のない原告主張の支払拒絶の事実及び原告が現に本件手形を所持している事実を総合すると、原告主張の各裏書譲渡、その主張の支払のため呈示がなされたが支払が拒絶せられたので、三菱銀行が原告に対し請求し、原告が同銀行に対し償還をなし、本件手形を受戻した結果、現にその所持人となつていることが認められ、右各認定をくつがえすに足る証拠はない。

そこで、被告の(二)の抗弁について判断しよう。

仮に、被告主張の(二)の(イ)の事情があつたとするも、原告会社が訴外大野バルブ製造株式会社から本件手形の裏書譲渡を受けた際原告会社が右事情を知らなかつたことは被告の自認するところである。また、仮に被告主張のように、被告が昭和三四年一一月三日原告会社代表取締役福原耕一に対し右事情を告知したため、原告会社が本件手形を償還により三菱銀行から受戻した際原告会社において右事情を知つていたとするも、償還による手形の受戻は償還義務の履行による手形の再取得であつて、その意味でそれは任意の取得ではなく、法律上の強制に基く取得であるというべきであるから、被告主張のような人的抗弁は、償還により手形を受戻した原告会社に対しては、原告会社の悪意の場合においても対抗できないものと解するを相当とする。従つて、被告の右抗弁は採用することができない。

そうすると、被告に対し本件手形金額二四三、二〇〇円及びこれに対する満期である昭和三四年一一月六日から右支払ずみに至るまで手形法所定の年六分の割合による利息の支払を求める原告の本訴請求は理由があるから、これを認容し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条、仮執行の宣言につき、同法第一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 安部覚)

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